精油の劣化(1)ー水分

水分による精油の劣化って?

これもお客様からいただいたご質問です。化学が解らないので拒否反応が出る為、出来るだけ解りやすい言葉でとご要望がありましたので可能な限り簡単に書きますね。

精油が劣化する原因の一つに、水分があります。その水分が引き起こすものは酸化による変質です。

 

酸化とは?

酸化とは、何かの物質が酸素と結びつくことです。有機化合物が酸素と結びついた場合、変質に繋がります。鉄は放置していると少しずつ空気中の酸素と結びつき(酸化)、錆が出てきてしまいますよね。

鉄を水に浸けたり触れさせたりすると、水が酸素との合成ほ促す触媒となり、鉄はかなり素早く酸化します。酸化した鉄は、酸化前にあった鉄本来の強度や性質を失ってボロボロになってしまいますね。

精油は有機化合物で、精油を構成する芳香分子の中には必ず炭素(C)があり、炭素も多くの物質と結びつきやすい性質を持っています。そこに水が触れることにより、酸化が起こりやすくなり、変質に繋がります。

 

 変質って?

変質というのは「精油の品質が落ちることで精油の効果が下がる」ということではなく、文字通り、性質が変わってしまうということです。精油の効果が落ちるのではなく、その精油の持っている特性が無くなるだけでなく別の使用しづらい物質が発生する可能性もあります。

酸素が精油内の有機化合物と結びついてしまうと、アルコール類がアルデヒド類やケトン類に、アルデヒド類が酸類に、モノテルペン類はモノテルペンオキサイド(モノテルペノイド)に。。。などと言った変化が起こる場合があります。

【アルコールの酸化の例】

★第1級アルコール(炭素1個の分子)が酸化すると、、扱いにやや注意が必要なアルデヒド類になります。

アルデヒドが酸化するとカルボン酸になります。

第2級アルコール(炭素2個の分子)を酸化すると、扱いにやや注意が必要なケトンになります。

★ついでに:第3級アルコールは酸化しません。

それまでに存在していなかった物質が増え、そして存在していた成分が減ったら、精油の香りも使用時の注意事項も変わります。それを「変質」と言います。

水がくっつくと、水が触媒となって酸素との化合を促進してしまいますので水には触れさせないほうが良いのです。温度が上がると化学反応が熱により促進されますので、酸化はしやすくなります(温度の話はまた別の機会に)。

ジェルなど、水を利用したケア製品を作る場合は出来るだけ最低単位で作成し、早く使用してください。

 

精油は水には意外に強いってほんと?

「植物内では水が循環していて精油は常に水分に触れているのだから、精油は意外と水に強いので湿気や水蒸気による劣化はあまり気にしなくて良いという話も聞きましたが、どう思いますか」

まず、精油が植物内において常に水に触れている、ということはありません。

植物内で合成された精油は、油細胞(ゆさいぼう、油室という場合も)に囲まれる形で一応保護されています。ジンジャーなど根茎から精油を採る精油は根茎に、果皮から採る精油は果皮に油細胞が集合しています。花咲全草を蒸留して採取する精油は、そのタイミングが一番精油が多量に製造され油細胞に貯蔵されている時期なのでしょう。植物は体内で精油を作るだけでなく一緒に使う保存容器と保管場所をちゃんと自分で用意出来ます。使用するタイミングまではそこに留めておき、必要に応じて放出するのです。放出される時には水分にも触れているとは思いますが、一瞬で変質することもありません。

それに植物は常に精油を消費しては新しく製造され、というのを繰り返しているので、基本的には常にコンディションの良い精油が油細胞にあります。

それに、生きた植物の中にあり、常に生産者であるその植物により消費・代謝・生成されている状態と、取り出されて独立した精油を人間が管理・使用する状態、これらを同じように考えていいのかにも疑問があります。植物の話から外れますが、容器に水を入れ、モーターなどで水流を発生させ容器内を常に循環している水と、ただ容器に入れておくだけの水だと、前者の方が腐りづらいことが解っています。植物の中も常に水や物質、エネルギーが動いており、一定以上は変質しづらくなるような何らかの要因が存在していると思われます。それに植物は自分が自分の為に作り出すものの扱いは完璧で、太陽光や自分の水分で成分の化学変化が起こることも前提としていますし、必要な分だけ生成し、それが劣化する前に使用なり代謝なりしています。

というわけで私は、植物の内外の環境を同じように考えることは出来ないので、湿気も水蒸気も、それに触れたら即変質というわけではないにせよ精油変質の一因になりやすいので気にしたほうが良いのではと思っています。