精油の偽和
皆様へ:情報使用上のお願い
この基礎知識の情報は、正確さに関して注意を払っておりますが、あくまで情報提供であり、ここに記載の情報の取り扱いは皆様の自己責任でお願い致したく存じます。
参考:オンラインブラウジングプラットフォーム(OBP)、製造元提供の資料
精油は9割が”偽和”か合成香料
近年、多くの方が合成の医薬品からもたらされる副作用を避けたいと願い、自然療法を通じて体に心地良いライフスタイルを作ろうとされています。しかし、オーストラリア産ティーツリーなどに見られる政府の規制(成分基準の設定)や各種認証団体の認定、確かな成分を求める人々に購入していただく為に、アロマテラピーの精油は残念なことにこの世に出回る90%ほどが何らかの調整をされています。
それをアロマテラピー業界では「偽和」と呼んでいます。
逆に、同じ産地で同じ時期に採取した植物を原料にして製造された、それ以外のものを混ぜていない精油を「天然100%で純粋な精油」と呼びます。
それは、製造者や販売者の以下のような目的のためです。
-
精油製造のコストを下げたい
-
人気のある精油を販売したいが流通量が少ないので量を増やしたい
-
必要な成分がしっかり入っている状態で販売したい
-
香りが良くないので調整したい
そしてそのために精油に合成などの調整を行い販売している精油メーカーがあまりにも多く存在しています。しかしそのような精油であれ、天然100%、オーガニックと書かれて販売されることも少なくありません。残念でなりませんね・・・
例えば真正ラベンダーは、近年の気候の変化によりなかなか育たず、あるいは育っても枯れてしまい、真正ラベンダーの精油の製造量は昔に比べてかなり減っています。しかし大変人気のある精油ですから販売したいメーカーはたくさん存在するので、その結果偽造が行われるようになり、製造量よりも流通量が非常に多くなっているような状況です。
ローズも、精油を採ろうと思うなら朝方に咲いたバラを積む必要があり、そしてその乾燥総重量からは、他の精油の10分の1の0.01%程度しか集油出来ない為、非常に高価な精油です。しかし、ローズも非常に女性らしく気品がある人気の香りですから、似たような香りでブレンドしてもあまり違和感がないことからゼラニウム精油をブレンドすることでかさましが行われています。
前述の、オーストラリア名産のティーツリー精油は、粗悪品が多数で回ったことから、オーストラリア政府が「テルピネン-4-オールを30%以上、1,8-シネオールを15%以下含む精油」をティーツリー精油と規格を設定しました。そうすれば粗悪品は出回らず、一定の基準値を満たす精油を手に入れられるようになるのではと考えてのことだったのでしょうが、実際はその2つの成分をその割合を満たすようにブレンドした粗悪品が出回るようになってしまったのでした。このように、成分を基準値に向けて調整することを「基準化」あるいは「標準化」と言います。
>>真正ラベンダーの偽和について(Youtube、英語)
https://www.youtube.com/watch?v=tdX_sKIZMKY
100%ピュアナチュラル、セラピーグレードと記載されている真正ラベンダーの精油を海外のAmazonで複数購入してGCMS分析を行ったところ偽和・合成しかなかったという動画。繰り返される、「ここに記載されている〇〇という成分は自然のものではなく合成」という解説を聞いていると恐ろしくてなりません…。
偽和の歴史
精油の偽和が見つけられた初期の事例は、19世紀半ばごろです。既に19世紀前半の時点でシナモン樹皮精油からシンナムアルデヒドを単離することが可能となっており、19世紀半ば頃には、シンナムアルデヒド単体成分の香料が作られました。
そして勃発した第二次世界大戦により、天然香料の原材料を手に入れるのは難しくなりました。おそらく合成香料の原材料も手に入れづらくなっていたはずです。しかし香料も必要だった為、化学者は新たに精油の代替品を開発することになり、多くの合成芳香物質が試験的に製造されたのです。そしてそれらは実際に、精油の代用品として使われるようになりました。そしてそこから急速に、精油の偽和や合成香料の製造が拡大していったのでした。
そして、現代。様々な偽和が溢れていますが、それを見抜くための検査手法も発展しつつも、それに合わせて見抜かれないように偽和の手口もさらに巧妙になっています。
偽和の種類
偽和の精油の種類としては、以下の5つが挙げられます。
-
化学的に合成した成分を添加
-
香りのよく似た他の精油を添加
-
他の植物から抽出した成分を添加
-
精油を再蒸留して成分を取り出し、別の精油に添加
-
エタノールやクエン酸トリエチル、水、脂肪油などでかさましをする
1、化学的に合成した成分を添加
これは一面的な強い香りになっていることが多いと思います。化学的に合成した成分はやはり自然のものと違います。これもうまくバランスを取られたら分かりづらいかもしれませんが、だいたいは一面的で奥行きのない、違和感のある香りになっていることが多いです。
2.香りのよく似た他の精油を添加
ローズの精油を採ろうと思うなら、原料は朝方に咲いたバラを積んだものである必要があり、そしてその乾燥総重量からは、他の精油の10分の1の0.01%程度しか集油出来ない為、非常に高価な精油です。しかし、ローズも非常に女性らしく気品がある人気の香りですから、似たような香りでブレンドしてもあまり違和感がないことからゼラニウム精油をブレンドすることやエタノールを1~2%添加することで、かさましが行われています。また、他の天然の精油を混ぜているだけですので、純粋な精油ではなくても「天然100%」には間違いありません。
3、他の植物から抽出した成分を添加
これはメーカーが巧妙にブレンドしている場合がありますので、とても判りづらいものもあるかもしれません。
真正ラベンダー特有の優しい香りは酢酸リナリルですが、ラバンジン・スーパーも酢酸リナリル成分を持ち、とても良い香りがするものがあります。そこでラバンジン・スーパーをそのまま足している精油もありますが(カンファーが通常の真正ラベンダー精油の基準値以上になる)、ラバンジン・スーパーから酢酸リナリルを取り出して、それをラベンダーに添加すると、天然100%の(でも純粋ではない)真正ラベンダー精油の出来上がりです。
4.精油を再蒸留して成分を取り出し、別の精油に添加
古くなった精油や、あまり香りの良くない精油などを再蒸留にかけ、特定の成分を取り出し他の精油に添加します。これも天然の精油を使ったのなら、天然100%と書いても嘘ではありません。
あと、再蒸留ではなくても古くなった精油を足すということもよくあるようです。
5.エタノールやクエン酸トリエチル、水、脂肪油などでかさましをする
エタノールは、匂いが解りそうなものですが、うまくブレンドするとすぐには分からなくなるように出来るそうです。ただ、エタノールは成分分析機の洗浄や消毒に使われることがあるので、エタノール含有量が非常に少ない場合、かさましに使われたのではなく、消毒液の混入です。
クエン酸トリエチルTriethyl Citrateは、エタノールでクエン酸をエステル化して作られる無色の液体で、精油と同じ油様物質で、香りはありますがあまり強くはないので精油のかさましに使われます。食品添加物にも指定されており、食品には香料としての使用のみが許されています。他、化粧品や医薬品に対して可塑剤(柔軟性を与えたり、加工をしやすくするために添加する物質)として使用されています。これは成分分析表を見たら分かります。
例外>>ベンゾインなど一部の精油はクエン酸トリエチルを混ぜないと使用出来ませんので必要な添加物としてブレンドされている場合もあります。これは販売サイトや箱などに明記されているかと思います。
水はほとんどかさまし材に使用されることは今はありませんが、シベリアモミなどほんのわずかな一部の精油は水を取り込むことが出来るので、昔は使われていたことがあるようです。10%ほどの水が含まれる場合があるようです。
脂肪油は、容易に判別出来る為、最近は使われていません。吸い取り紙(油とり紙みたいなもの)に精油を一滴加えるとその紙の上に斑点が出ますので簡単にチェック出来ます。また、エタノールを混ぜた時の混和性を見ても分かるようです(エタノール溶解度テスト)。
他、精油によってはパラフィンやグリコールをかさまし剤として使われることもあったようです。
偽和の例
- バジル・リナロール精油=合成リナロール添加、あるいは他の精油から取り出したリナロールを添加
- プチグレン・ビガラード精油=合成の、リナロール、酢酸リナリル、ゲラニオール、酢酸ゲラニル添加
- シナモン樹皮精油=合成シンナムアルデヒド添加
- カユプテ精油=ラヴィンツァラ・シネオールやユーカリ・ラディアタの添加
- イランイラン精油=ラバンジンから抽出したリナロールを添加
- ユーカリ・ラディアタ精油=ラヴィンサラ・シネオールを添加(検出困難)
- ネロリ精油=パルマローザやスイートオレンジから抽出した成分の添加
- レモン、グレープフルーツ等柑橘系精油=合成シトラール等の添加
- シベリアモミ=数%の水の添加
データは膨大なので一部のみ記載させていただきました。
偽和の見抜き方とその注意点
- 外観(色、粘性など)
- 成分分析表のチェックする
- 屈折率、比重、旋光度テストの数値を見る
- キラル分析
- 水量測定
- カルボニル値の測定
- フェノール含有量の測定
- あなたの鼻を信じる
※他にもあと数個ありますが省略します
1.外観(色、粘性など)
精油の色、粘性などが本来のものと差がないかチェックします。
2.成分分析表のチェック
上の項目でご説明した、エタノールやクエン酸トリエチル、その他その精油に入っているべきではない成分(真正ラベンダーに対して多めのカンファー=ラバンジン・スーパーの添加の疑いなど)がないかチェックします。
成分分析表を発行しているメーカーでも偽和は残念ながら見つかります。
成分分析表の割合が低い精油は不安を感じます。もちろんその業者様が本物を扱っていても成分分析表は精度が低いという可能性は十分あり得るので偽和と決まったわけではありませんが、成分分析表の精度が低すぎると信用したくても判断することが難しいですね。
ですが、高精度の成分分析表であっても、数字などをいじられていたらどうしようもありません。グラフとリテンションタイムが記載されていたとしても偽造なんていくらでも可能だろうと思います。提供された成分分析表は完璧でも感覚的に明らかにおかしいという時は、成分分析を自分で依頼するしかありません。
備考:エタノール、アセトン
検査機器の消毒に使用されます。そして消毒使用程度のエタノールでは再成分分析をされないこともほとんどで、0.03%未満のエタノールが入っている状態の成分分析表もよく存在していますが、それらは偽和ではありません。エタノールをかさましに使う場合は、全体量の1~7%程度を使います。
ついでに記載しますが、アセトンも分析器の洗浄に使用されることはありますので、0.03%未満であれば洗浄用だと思っていただき、無視してください。
3.屈折率(ISO280)、比重、旋光度(ISO592)テスト
詳細はこちらのアロマ基礎知識に記載しておりますが、精油に対してこれらのテストを行い、精油特有の屈折率、比重、旋光度の範囲内に当てはまらない場合、何らかの物質が精油に対して添加されている可能性があります。
4.異性体の割合分析(キラル分析)
精油の異性体の割合をチェックし、その精油の正常範囲であるかどうかを判断します。しかし異性体を振り分けるのに機械が必要なので一般人は自分ではチェック出来ません。
キラル分子とは簡単に言うと、ある分子とほぼ同じ構造をしているが一部の分子の場所が入れ替わっているような分子のうち、それらが鏡像となっていないものです。言葉で言うとややこしいですね。キラル分子については>>こちらの文献が解りやすいです。
例を挙げると、ベルガモットのα-ピネン、β-フェランドレン、リモネンなどや、真正ラベンダーのリナロールやリナリルアセテートなどの、異性体の割合を見て正常値かチェックします。
ベルガモット精油内の(R)+α-ピネンは割合として約90-97.5%、その異性体である(S)-α-ピネンは約2.5~10%程度が正常値です。ですので、ベルガモット精油のα-ピネンのS異性体の割合が30%以上など適切な基準値を超える時、合成が行われたと判断することが出来ます。
5.カルボニル価の測定
カルボニル価とは、「油脂の酸化や変質の指標」となる数値と定義されています。
油脂は酸化した時に過酸化物を生じますが、その過酸化物はさらに分解されると、アルデヒドやケトンといったカルボニル化合物を生成します。この量を示すのがカルボニル価です。つまり、カルボニル価は酸化の第二段階の度合いを示す数値です。
精油の偽和判定においては、このカルボニル値が正常の範囲を超えている場合、カルボニル化合物を含む何らかの物質の混入の疑いがあると判断します。
判定方法ですが、まず精油をヒドロキシルアンモニウムクロリドで酸化させます。すると、それにより塩酸が精油から遊離します。その遊離した塩酸を完全に中和するために必要な水酸化カリウムの量(精油1gあたりの数値)を測定し、基準値と比べます。
6.フェノール値の測定
エッセンシャルオイル中のフェノールの体積パーセントを測定し、基準値と比べます。
7.水量測定(ISO 11021)
カールフィッシャー法によるエッセンシャルオイルの水分含有量の測定を行い、水が混入していないか判定します。シベリアモミなど一部の精油にのみ使用されます。また、水が混入している精油は10℃くらいに冷却すると精油が曇り、沈殿物が見られます。水は遠心分離器にかけると精油から分離するようですが、その際に一緒に一部のアルデヒドなどの成分も出てしまいます。
8.あなたの鼻や感覚で使用するかどうか決める
成分調整されている精油のほとんどは、香りに奥行きがなく一面的な香りがします。また、香りが強すぎるものもあるかもしれません。それらに違和感を得たら使用するのを停止しましょう。
ですが、香りに納得出来ない=偽和精油、とは限りません。
香料レベルの抽出方法をした、低品質の精油の可能性もありますし、微妙な香りの純粋精油の可能性も十分にありますので、SNSやネット上で気楽にあの会社の精油は偽和だ、あるいは偽和みたいな香りがする、とお伝えになられると名誉棄損などの可能性もありますから、まずは販売店へお問い合わせになられてはと思います。
また、偽和と解っていても添加されているのが天然成分であり、使用する本人が好印象や調和を香りから感じるなら、嗅いでいる本人には必要な成分構成を持つ精油の可能性があるため、ブレンドされたオイルだと割り切って自分専用であれば使用しても良いのでは?と話しているアロマセラピストもいらっしゃいるようです。※製造元や弊社ではそのような精油は扱いません。
まとめ
- 偽和とは精油に対して行われる香りや成分、あるいは量の調整である。
- あり得ない格安の精油は偽和や人工香料の疑いがある。
- 成分分析表、屈折率、比重、旋光度、香りのチェックをすることで解ることも多々あるが、専門の機械を使ってテストしないと分からない偽和も最近は多い。
- 偽和と偽和検出の技術はいたちごっこ。
- 成分分析表も偽造(あるいは転用)されている可能性があり、疑いがある場合は自分で成分分析を依頼するしかない。
- 最終的に使用するかどうかを決めるのは自分の鼻。