爬虫類と香り:アロマテラピーは必要なのか?

はじめに

「アロマテラピー」と聞くと、多くの方はヒトや犬猫など哺乳類に使われるもの、という印象が強いでしょう。ところが近年、爬虫類の福祉(ウェルビーイング)にも香りの刺激が有効かもしれないという考えがじわじわと広がっています。

そこで私はフトアゴヒゲトカゲ(Pogona vitticeps)と共に、「香りが彼らの暮らしにどう作用するのか?」を探る実践を始めました。


香りは本当に意味がある?

爬虫類は「匂い」よりも「視覚」や「温度感知」に優れていると言われています。事実、彼らの行動は視覚主導のものが多いのは間違いありません。

しかし一方で、近年の研究によるとフトアゴを含む多くの爬虫類は、食べ物の探索、仲間の認識、縄張り行動などに嗅覚を十分に活用しています。

✔ 香り=無意味 ではない。

むしろ、視覚・触覚と組み合わせることで、環境エンリッチメントの重要な要素になりうるのです。


他の動物ではどう使われている?

動物園やペットケアの世界では、以下のようなエンリッチメントが当たり前になっています。

動物 香りの使用例
ラベンダー・カモミールでリラックス
キャットニップやシルバーバイン
ハーブの枝、柑橘の皮
小動物 フルーツの皮、香り付きの木片

では爬虫類には? ほとんど事例がなく、まだ開拓されていない分野です。


リスクもある

実は、アロマテラピーといっても良い面だけではありません。
爬虫類は哺乳類とは代謝経路が異なり、精油の成分が肝臓や神経系に負担を与えるリスクが存在します。

特に注意が必要なのは以下の点:

  • ❌ 揮発性成分の過剰な吸入

  • ❌ 経皮吸収(肌に直接つく)

  • ❌ 誤って摂取すること

→ 使い方を誤れば「リラクゼーション」どころか健康被害にもつながります。塗布したり拡散させたりしてはいけません。あくまで使用は間接的に、です。なので実践はまだしないでください。使わなくても良いくらいの、非常に繊細な使い方しかできないからです。


それでも探求する価値がある理由

香りは「毒」か「福祉」かは使い方次第。
適切な濃度と方法で使用すれば、フトアゴの生活環境をより豊かにする可能性が十分にあります。

実際に、海外の最新論文でも、爬虫類の行動活性化やストレス低減に香りを利用することの有効性が議論され始めています。


次回予告

次回は…
🔍 「フトアゴの鼻はどれくらい敏感?嗅覚と行動科学」へ!
→ フトアゴの嗅覚のしくみを科学的に解説します。


🔗 参考文献

  • Stockley et al., 2020 – How to handle your dragon

  • Pereira et al., 2024 – Inclusive enrichment for dragons

  • Wilkinson, S.L., 2015 – Reptile Wellness Management

  • Galgano et al., 2023 – Antibacterial activity of thyme oil against reptiles